医療法人における医師資格確認の重要性とその影響

 近年、無資格者や資格停止中の医師による診療が社会問題として取り上げられる事例が相次いでいます。こうした状況を受け、医療法人には医師資格の確認体制を一層強化することが求められています。

 医療行為には高度な専門性と倫理性が不可欠であり、資格確認を怠ることは重大な医療事故や法令違反につながるおそれがあります。万が一、無資格者が診療を行った場合、法人は行政処分や社会的信頼の失墜など、深刻な影響を受けかねません。そのため、資格確認を確実に実施することは、医療機関の信頼を守り、安全で継続的な医療提供を支える重要な基盤といえます。

 また、医療法人が医療法や関連法令に基づき、医師資格を適切に管理することは、経営上の重要な責務です。定期的な内部監査やチェック体制を整備することで、万が一のリスクにも迅速に対応できる体制を構築できます。こうした取り組みは最終的に患者の皆さまに対して、安全で質の高い医療を提供することにつながります。

 

 今年10月30日、大阪市北区において、医師法違反の疑いで無資格者が逮捕される事件が発生しました。容疑者は、がん治療を含む医療行為を多数の患者に行っていたとされています。また、美容医療分野でも、無資格で医療行為を行ったとして医師法違反容疑による逮捕事例が相次いでいます。
 当職が医療監視員として勤務していた当時にも、無資格者による医療行為が2件、医業類似行為が1件確認されました。医療行為の2件では、いずれも医師法違反および歯科医師法違反により容疑者が逮捕されています。1件は、さいたま市北区の整形外科(すでに閉院)で、医師資格を持たない診療放射線技師が、かつて勤務していた医師の医師免許証をコピーし、医療法人に医師として採用され、医療行為を繰り返していたという事例です。もう1件は、さいたま市南区の歯科医院(すでに閉院)で、歯科医師資格のない歯科技工士が、患者の歯を削るなどの歯科医療行為を行っていた事例でした。これらは共に患者の身体に直接的な危険を及ぼす重大な犯罪です。また、医業類似行為の事例では、無資格者が知人の柔道整復師の免許証をコピーし、本人になりすまして整骨院を開設した案件で、開設時の立入検査で発覚したため、健康被害は未然に防ぐことができました。
 なお、大阪市北区の事件でも、採用時に医師免許証の提示を求めず、履歴書のみで採用が行われたと報じられています。当該法人の理事長は、免許確認を怠ったことを深く後悔しているとのことです。
 免許証の亡失やき損は再交付が可能ですし、免許証の記載事項に変更を生じたときは書換交付が可能です。採用などの際に不自然な事情がある場合には、必ず懐疑的な姿勢をもち、正規の確認手続きを徹底することが重要です。

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